Paradigm Shift Design

ISHITOYA Kentaro's blog.

ウェブサービスのビジネスモデルと広告中心の収益モデル

忘れないうちに書いておく.
どうも僕の脳みそは,揮発性が高くて長い文章を書くのに向いていない・・・.
#ヘッダを間違って書いてしまい,変なトラックバックが行ってしまいました申し訳ありません.

はじめに

この文章では,まず現状の広告事業がどのようなもので,近い将来それがどのように変わるのかということをデータから考える.それを踏まえてWeb上でサービスをはじめる場合,広告を中心にすえた収益モデルを採ることが適当なのかどうか,将来はどのような方向に向かうのかについて考えてみたい.

広告事業の現状

はじめに,現状の広告事業がどのように行われているのかということについて見ていきたい.
まず,広告業界全体の市場規模だが,電通の2007年度日本の広告費(PDF)によれば7兆191億円である.
このうち4大メディアといわれる,新聞・雑誌・ラジオ・テレビの規模はそれぞれ,9462億円・4585億円・1671億円・1兆9981億円となっている.インターネット広告は昨年の実績で媒体費4826億円,制作費1412億円,合計6002億円*1で,全体の8.6%を占めている.電通が今回の推計から広告費算出の手法を変えている*2ので媒体費のみの金額になるが,電通総研の2007年度〜2011年度のインターネット広告費予測(PDF)によれば2007年の予測は4534億円,2011年には7558億円*3で160%の成長を見込んでいる.
ここで重要なのは,インターネット広告費は,すでにラジオ・雑誌の広告費を超えており,近い将来,新聞の広告費を超えるということも想像に難くないということである.


さてそのインターネット広告の媒体費4826億円の内訳はアウンコンサルティングのP4P広告費予測(PDF)を参考にすると,パソコン向けP4P広告*4が1277億円で,うち検索エンジン連動型広告*5が1078億円,コンテンツ連動型広告*6が199億円となっている.モバイル向けP4Pは164億円で,PC向けP4Pとあわせると1441億円となり,それ以外の固定広告*7が3100億円*8*9となっている.
P4P広告はインターネット広告の中でも一番の成長分野であり,アウンコンサルティングによれば2011年には1.93倍の2785億円に,なると予測されている.


さて,次に,インターネット広告費は年々拡大していて,5年後にはテレビと肉薄する広告媒体になるであろうこと,中でもP4P広告が成長株であるということを踏まえて,「広告中心の収益モデルはビジネスプランとしてどうなのか」ということについて考えてみよう.

広告中心の収益モデルの是非

ここでは,ニコニコ動画に着目して,広告中心の収益モデルの是非について述べる.
ではまず,新聞の一面広告の出稿料がいくらかご存知であろうか.
約4000万円である.詳しくは
XREA.COM
指定されたページがみつかりませんでした - goo ブログ
辺りを参照していただきたい.
朝日新聞の発行部数は,公称800万部.ユニークユーザー数は割り引いて考えても700万人はいると考えられる.


それに対して,「2008年9月期には単月黒字化する」--数値で見るニコニコ動画の強さ - CNET Japanによればニコニコ動画は一日5500万PV,ユニークユーザー数は120万人いるという.それでようやく年内に黒字化できるかもしれないという話である.
その主な収入源は会費で,10月9日時点で会員数10万人で5400万円,アフィリエイトが1600万円,バナー広告費が1800万円で,総額は8800万円である.
あるていどの収入があるように見えるがネットワーク・サーバー費が馬鹿にならない.9月の黒字化が目標だというから,採算ラインは恐らく1億5千万円程度ではないだろうか.


ユニークユーザー数で言えば朝日新聞と比べて6分の1程度であり,朝日新聞の老若男女すべからく知っているという知名度*10からいって十分納得の行く数字だと思う.しかし広告収入を基準に考えると,朝日新聞は朝日新聞デジタル:どんなコンテンツをお探しですか?によれば,年間1668億円,1ヶ月138億円である.それに対しニコニコ動画は年間4億800万円,1ヶ月3400万円で朝日新聞の約350分の1という数字になる.


また,広告のみで成功しているMixiは携帯とPCあわせて月間118億PV,会員数1090万人,売り上げは平成20年第3四半期*11で広告収入が58億円,会員収入が4億4千万円,総額62億4千万円で単純計算すると年間257億6千万円である.
月間21億5千万円程度の収入があり,うち広告収入が19億3千万円.


さてこれだけ数字をあげつらって言いたいことは何かというと,はっきり言っていくらインターネット広告費があがったところで,結局はGoogleとYahooが勝ち組で,他はすずめの涙のおこぼれに預かっているにすぎないということである.
Mixiですらインターネット広告費の媒体費,4826億円のうちの3.9%しか取れていないし,ニコニコ動画にいたっては0.085%にしか過ぎない.これはまだまだ可能性があるという楽観的な見方もできるかもしれないが,今のままの広告手法では,ニコニコ動画のような規模のサイトを運営するのに,広告モデルは通用しないということを示しているといえるだろう.


結局のところ,「クリティカルマス」を超えるまで,広告は収益モデルの中心に据えることはできない.まして,これから開始するサービスにおいてやである.
だから,「これからサービスを始めるんだけれども,その収益モデルの柱は広告です」というのは,「クリティカルマス」,月間10億PVを超える自信があって,なおかつ出資者を納得させてお金を引き出しサーバー代やネットワーク費に充てることができなければ,実現しないのである.


これは新しくサービスを始める企業にとって大変な障壁である.

広告中心の収益モデルを実現するには

ではなぜ収益モデルの中心に広告を据えることができないのだろうか.
結論から言えば,広告がそもそも「マス向け」であって,数を打てば当たるという考え方に基づいているからだろう.
比較的掲載料金の高いバナー広告ですら,行為としては新聞に広告を掲載するのと同じだが,媒体費は新聞のそれと比べてないに等しい.
P4P広告も,そのコンテンツを閲覧しているユーザーにとって,本当に意味のある広告を提示できているとはいえない.だからいくらP4P広告を掲載してもコンバージョンが低く収益につながりにくい.


こうした問題は,「コンテンツを見ているユーザーの多様性」に起因している.
誰にでも受け入れられるようなコンテンツを閲覧しているユーザーが,そこに掲載されている広告をクリックする可能性は低い.なぜなら,そのコンテンツに対して本当にマッチした広告が表示されていても,「誰にでも受け入れられるコンテンツ」を閲覧しているユーザーの嗜好が多様だからである.100人が100人,コンテンツが優良だと判断しても,その100人のうち1人しか広告をクリックしなければ収益にはつながらない.


だから,世の中ではWeb3.0だ個人化だと,旗が打ち振るわれるのである.確かにユーザーの嗜好がデータ化されていて,コンテンツとその嗜好データを処理することで,ユーザーにとってその時一番効果的な広告が表示されるというのが最良である.しかし,技術的にいって,データの性質の繊細さからいって,そのようなことが5年のスパンで実現するとはちょっと考えにくい.


むしろ,コンテンツの側から考えたほうが問題がシンプルになる.
それは万人受けするコンテンツを不特定多数のユーザーに提供するのではなくて,特定少数のユーザーにしか受け入れられないコンテンツを提供することである.そうすればユーザーの嗜好の方向性は揃い,そこに掲載される広告がクリックされる可能性は高くなるだろう.10人が閲覧して1人,広告をクリックすればいい.
だから,ユーザーの多様性をある程度制限できるような「ニッチなコンテンツ」を提供し,そのコンテンツに対してマッチする「ニッチな広告」を掲載するための仕組みを用意することが,この問題を解決する早道ではないだろうか.


「ニッチなコンテンツ」を作り出すことができるのは,個人あるいは中小零細企業だろう.ターゲット数が増えれば増えるほど,作り出すことのできるコンテンツはどこかしら万人受けするものになってしまう.だから,コンテンツをいかに効果的に閲覧してもらうかというのはもちろんのこと,ニッチなコンテンツを作り出す「クリエーター」に対して広告収入を還元したり,制作支援をしたりすることで,企業は「優良なクリエータ」を養成し囲い込むような仕組みを用意する必要がある.


「ニッチな広告」を提供することができるのは,博報堂・電通・Google・Yahoo!のような大企業ではない.八百屋のおばちゃんやタバコ屋の犬を口説き落として1件につき1000円程の広告料を広く集めることのできる企業だ.博報堂や電通は絶対にやらないし,GoogleやYahooの様に「広告載せたかったらWeb使えばできますよ」という仕組みでは実現できない.
これは地域の広告代理店や地域限定のタウン誌を作っている会社にしかできない仕事だろう.それらの企業を取りまとめる,ニッチ広告の専門会社が必要だ.


というわけで,長々と書いたが,言いたいことは,

  1. 「ニッチなコンテンツを特定少数のユーザーに提供するための仕組み」
  2. 「ニッチな広告を広く数多く集めるための仕組み」

を作れば,問題が解決するということ.これはWeb3.0の個人適応のように技術によって物事を解決しようという話ではない.もっとシンプルな話だ.


このような仕組みができれば,新しいWebサービスをはじめるため敷居が低くなり,今よりも多様なサービスが世の中に出てくるのではないだろうか.

リエーターへの還元

結局,何かサービスを考えてそれを売り出したとき,「クリティカルマス」を超えなければビジネスにならないのは明白のようだ.特に動画サービスのようなコストの高いサービスにおいてやである.
しかし,それこそ,100人使っている人がいたら商売になってもおかしくないと思うのは僕だけだろうか.
例えば,稚内北星学園大学の人たちだけのために作ったアプリケーションの保守を行っているだけで生活できればいいではないか.


西村博之氏は4Gamer.net ― [OGC2008#03]「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」のひろゆき氏が語る,ゲーム・コミュニティ・文化で,

 いや,まさしくそのコンテンツ作っている人が,それだけで,動画を上げるだけでみんなが喜び,それで食える仕組みが出来たほうが,面白いものが増えると僕は思うので,そのほうが社会としてはいいんじゃないかなあと,思うんですけど。

と発言している.氏の行っているユーザーが楽しいと思う「場作り」と,目指している方向性にとても共感した.僕はニコニコ動画なんてもうそろそろ終わりだなと思っていたけれど,氏の考え方を思うに,まだまだ可能性があるだろうと思う*12


僕の記憶では,「P2Pの衝撃」という7年前くらいのコラムで,P2Pが普及しインフラストラクチャーになり,そのシステム上で利用できる小額決済の仕組みができれば,「世界中で100人が喜んでくれて,100人が毎月お金を支払えば作者が生活できる」,そんな世界がP2Pで実現できるのではないかという理想を読んだのがはじめで,Winnyの逮捕直前に金子さんが構想していたことが,まさにそれではないかと思う.


このような話をすると,必ず「WinnyYoutubeニコニコ動画著作権法に違反したぎりぎり*13のことをやっているではないか」と反論される.でも,著作権法とこの話は相反する問題ではない.むしろ両輪としてともにうまくまわしていかなければならない問題だ.そういう質問をする人には一曲150円のitunesがなぜ成功したのか,一曲300円の国内オンライン音楽販売業者が失敗した理由は何か,問いたい.
僕はitunesが今のところ一番理想にちかい仕組みだと思う.小額決済・リコメンデーションも素晴らしいが, [iTunes][music] iTunes Store デビューへの道1 - bonar noteに紹介されているように,CDBabyのようなサービスを用いて4000円前後で誰でも音楽を販売できるということが一番素晴らしい.


だから僕は,Creative Commonsがあまり好きではない.共有地という考え方は素晴らしい.だけれどもコンテンツの製作者に「名誉」以外の何も還元されない仕組みは,「理想」とはかけ離れている.本当の理想は,いいコンテンツを作った人にきちんと「名誉と金」が還元される仕組みではないだろうか.武士は食わねど高楊枝は,武士だからできるのであって町民・農民は食わなかったら死んでしまうのだ.いいものも作り出されない.

まとめ

インターネット広告費は現在5000億円程度で,5年後の予測では1兆円程度になり新聞広告費に肉薄する.
市場が拡大しても,現状の仕組みのままでは勝ち組の取り分が増えるだけで,新しくサービスを始める場合の敷居の高さは変わらない.
これを解決するには,広告のクリック数を上げるような取り組みをする必要があるが,技術的に解決できる問題ではなく,むしろニッチなコンテンツを見ているニッチなユーザーにニッチな広告を提示する仕組みを考える必要がある.
そして,ニッチなコンテンツを提供するためには,それを作り出すクリエーターに「名誉と金」が還元されるような仕組みを作る必要がある.
そのような仕組みができれば,サービス開始の敷居が下がり,多様なサービスが提供されるようになるだろう.また個人適用のための技術はその仕組みができて初めて,生きてくるのではないだろうか.


ということでした.

未来の広告*14

さて,「クリエーターが喜び,ユーザーが喜び,社会も潤う」ような世界はそう簡単には来ない.まず博報堂や電通は「単価の安い仕事はやらない」だろうし,4大メディアがまだまだ隆盛を誇っているうちはまず無理だろう.
だけれども,インターネット広告費が新聞広告費を逆転する5年後には,その一端が見えているのではないだろうか.
ニッチなコンテンツが大量にあふれかえり,ニッチな広告を集めてくる業者が現れる.
10年後には双方を効果的に結びつけるWeb3.0的な技術が実現し,博報堂と電通の業績が悪化.ニッチ広告業者が博報堂を買収.あぁ想像するだに小躍りしてしまう.


ちょっと飛躍して20年後の広告事業はどのようになっているだろうか.
ウェアラブルコンピューターが進化して,例えばコンタクトレンズに,リアルにヴァーチャルを投影できるようになる.また,きっとカメラが進化していて画像中のオブジェクトを一つ一つ識別できるようになっているだろう.
例えば,コーヒーカップが見えたとき,そのコーヒーカップがいつも研究室で使っている僕のコーヒーカップであることをコンピューターが認識する.
するとコンピューターは瞬時に,名古屋大学生協・名古屋大学ファミリーマート・ローソン・IBカフェの商品を検索して,いつも飲んでいるインスタントコーヒーと,紅茶とジャスミンティーのティーバッグを推薦して,それをコップに投影してくれる.


それが進んでいくと,人は自分に属しているものの中で人に触れる回数の多そうなものの一部分を広告スペースとして販売できるようになる.例えば胸の開いた服を着ているおねぇさんの胸元,モヒカンの両側.背中,オデコ.
きっと広告が氾濫して社会問題化することだろう.


http://go1by1.com/jan/archives/img2/050823-01.jpg:image:small:left
http://www.bmoo.net/archives/img/20060826_1.jpg:image:small



想像しておいてなんだけど,こんな未来,あんまり来て欲しくないなぁ.

おわりに

あー.長くなりすぎた.
途中支離滅裂なのはメモなので勘弁して.
そのうち推敲するかも.


で,僕はどちらかというとニッチなコンテンツを提供するための仕組みというかアプリケーションを作り続けていきたいなぁとおもう.Soyaはその親玉みたいなやつだけれど,ちょっと構想から大風呂敷を広げすぎた.だから,wakhokとかむしろpapuとかuzullaさんとかに貢献できるアプリケーションを作りたいと思う.
ひろゆきとかがWeb上でのコミュニティ形成とか,知らない人が出会うとかそういうことを目的にしてるけれど,僕はどちらかというとリアルのコミュニティを支援したいと思っている.

*1:[http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/02/20/18524.html:title]

*2:媒体費のみから,媒体費+制作費とした.予測の数値はいずれも媒体費のみ

*3:制作費が2007年度と同じ広告費に対して24%程度の1778億円とすれば9336億円

*4:Pay for Performance,成果報酬型広告

*5:AdSenseのように検索結果に表示される広告

*6:AdWordsのように表示されているコンテンツに連動する広告

*7:コンテンツの目を引く場所に広告を表示する従来型の広告,バナー

*8:全体は電通総研,内訳はアウンコンサルティングなので推定

*9:モバイル向け広告費は除く

*10:主観です.知らない人がいたら教えて・・・

*11:9〜12月

*12:というか,西村博之氏を先入観で馬鹿にしていた自分に反省しきり

*13:Winnyは確実にアウト

*14:ここからは,適当です