2011年も始まってひと月が経ちましたが。
気が向いた*1ので、メモ書き程度に書評なぞ。
AmazonでiOS hacksを買った時にリコメンドされた本。
生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ (アスキー新書)
- 作者: まつもとあつし
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2010/12/09
- メディア: 新書
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内容としては、
今メディアの境界で何が起こっているのだろう
p,4 「はじめに」
という疑問に対して、『前半を「電子出版」、後半を「映像」そして「ネットメディア」というテーマ』で包括的に答えてくれる。
電子出版・映像・ネットメディア、それぞれの業界の現状をつぶさに述べ、キーパーソンへのインタビューを通して、ネットメディアとの融合あるいはデジタル化の影響がどのようなものか、世界がどのようにして変わっていくのだろうか、という疑問にアプローチする著者の解説と考察が興味深い。
以下、乱文。
僕としては、特に電子書籍の三原則あたりが頭に残った。電子書籍の物足りなさがどこからきているのかを的確に突いていると思う。
- 所有感があり同期されること
- 検索・引用可能であること
- ソーシャルな読み方ができること
p,69 「電子書籍三原則とフォーマットを整理する」
「所有感があり同期されること」について著者は、所有者が*2電子書籍とその状態*3を複数デバイス間で共有し、かつ、所有者が「検索・引用可能である」ならば「所有感」が演出できるのではないか、と述べている。
「本はやっぱり紙じゃなきゃだめだよね」世代が電子書籍に感じる違和感の正体は何だろうと思っていたけれど、「複数デバイス間でのコンテンツと状態の共有」が答えだなと納得した。
ただ、「検索・引用」は所有感にあまり寄与しないのではないのかとも思う。自分の本だからこそ検索したいし引用したいということかな。いや、「この本を持っています」というメタデータがなければ引用はできませんってことなのかな。
ユーザーが思った通りに部分引用するためには、1文字単位で本の部分要素を指定できるユニバーサルな識別子が必要だけれど、ePubとかではそこを解決しているのだろうか。XPathとかXPointerとかを使えって言うと、エレメントまでは指定できるけどテキスト要素の一部分までは指定できない気がする。微妙。
で、そういう本当の部分要素の引用は「自分の持っているコンテンツ」に対して行うものではないので、著者が指摘している通り、コンテンツがオープンになっていないといけない。しかも、ユニバーサルでないとならないので、コンテンツが永続化されている必要がある。
「本のデータを永続化している」という意味でGoogleは理想形なのかもしれないけれど、少なくとも「本の部分を表すユニバーサルな識別子が提供される」までは、完成系ではないと思う。それに、基本的にパブリックドメインにないと検索できないわけだし。じゃ、誰が本のデータを永続化できるのか、というと、私の企業には無理なんじゃないかなぁと思う。
ちょっと整理すると、
- 書籍データのオープン化と永続化
- 書籍の部分要素に対するユニバーサルな識別子の定義
- 「その書籍を所有している」という情報のコンテンツ提供元あるいはプラットフォームにしばられない共有
というのがなされて初めて真の引用と検索ができるのだと思う。
1については、AmazonとかGoogle、なんなら出版社ががんばればいいと思う。真に永続化したいのなら世界図書館とか作るしかないけど。
出版社ががんばるなら
「引用された部分は誰でも読めて、引用部分をクリックすると、その本を買ってないユーザーはその周辺一ページくらいしか読めないけれど、購入しているユーザーは全体が読める」
みたいな仕組みを作らないとならないか。
ただまぁ、3が不可能に近いので、むしろ「書籍データを永続化しているプラットフォーム間で交換可能な、書籍の部分要素に対するユニバーサルな識別子と、所有情報」を実現するほうが現実的か。Kindleなんかは部分要素に対するマーキングを共有できたりするわけだから、そういうマーキングをプラットフォーム間で共通の仕様として公開してくれれば、なにかが解決する気がする。
まぁ書籍のオープン化すらままならないので、近々では「本当の引用」はシステマティックにできないだろうね。APA Style Blog: How Do I Cite a Kindle?なんかを見る限り、Kindleではページ番号が表示されないから引用しにくいとかいう問題もあるぐらいだから、Amazonはシステマティックな引用はサポートしていないみたいだし。
せめて、できて然るべきな引用をとりあえず実現してもらいたいわけで。iBooksやiBunkoで読んでいる書籍の部分を、Evernoteにリンクつきで引用するくらいは実現してほしいな。それってビューワーの努力だから、ユニバーサルでもなんでもないけど。
「ソーシャルな読み方ができること」については、そのあとの7章で詳しく説明されている。なんとなく文章を読むとメタデータ = folksonomyみたいに捉えているけど、分類に使うメタデータをみんなで付けようという概念がfolksonomy*4なので、なんか説明が乱暴な感じがするけれど、まぁいいや。
全体として「意図的に答えを出していない」感じがする。現状の問題点とそれに対する考察はなされているけれど、じゃぁどうなるの?具体的にどうすべきなの?というところは「ソーシャル」とか「ネットメディア」という魔法の言葉でお茶が濁されていて、みんなで考えようよという印象。答えまで期待して買ったので、投げっぱなしジャーマンかと思ってちょっと残念だった。だけど、とにかく、現状の問題が分かりやすく整理されているので、「これからのコンテンツ・メディアのありかた」にちょっとでも興味があるのなら、取り掛かりとしては最高だと思う。取り掛かりに「コンテンツ学」とかを選んでしまうとちょっと萎えるし。
現実逃避が長すぎた。飯食おう。
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追記。上述の引用はquotationのことであってcitationのことではないです。