木田元著、哲学は人生の役に立つのか、読了
麻里書房で買った本。
いろいろとあって、継続して啓蒙とは何かについて考えているのだけれども、啓蒙は人にとって必要かどうかということを考えていたときに、タイトルで買った。
買ってから著者名をよく見ると木田先生だった。
- 作者: 木田元
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2008/10/16
- メディア: 新書
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話としては、木田先生が一般教養の講義が終わった後に学生からよく問われる、
「哲学の勉強なんかしてなんの役に立つの?」
p,4「はじめに」
という根元的な疑問に、自身の半生を振り返りながら答えてくれる。
はじめにで、著者は
・・・私は「いや、なんの役にも立たないよ。役に立つ講義を聴きたいのなら、ほかの科目を選んだ方がいいね」と答えていました。
私は「役に立つ」ということを社会の役に立つ、世のため人のために役に立つという意味に解し、そういう意味では「哲学はなんの役にも立たない」と答えたつもりです。
p,5「はじめに」
といいつつ、
哲学は私の人生にとって役に立った
p,5「はじめに」
から、どう役に立ったのか自分の体験を通して語っていく。最後まで読んでも
はじめにも言いましたように、「人生の役に立つ」ということが、世のため人のためになるという意味なら、やはり私には哲学が役に立つものだとはとうてい思われません。
と締めくくっている。と「哲学が役に立つかどうか」の答えにはペシミスティックな答えしか用意されていない。
でも、たぶん著者が答えようとしたのは「哲学が役に立つかどうか」ではないとおもう。上述の文に続けて
しかし、もしそれが私自身の人生において救いになったか、ということなら、たしかに私は哲学に出会うことによって救われた、と言っていいところがあります。ですから哲学は役に立ったと認めざるを得ないでしょう。
p,249「おわりに」
と書いている。「哲学が役に立つかどうか」なんてことよりも「自分らしく生きること」、そのために「好きなことを探し出すこと」、見つけたら「とことんまで追求すること」を伝えたかったのだろう。
しかしその「自分らしく生きること」が、近年、
人間の中に白木作りの無垢の「自分」といったようなものが隠れていて、これが社会の拘束や人間関係によって傷つきやすい。そうした「自分」を社会や人間関係によって傷つけられないように大事に守り、なるべくそこに閉じこもって生きよう
p,222「第七章 好きなことをして生きる道、「自分らしく生きる」ことの意味」
という風に解釈されてしまっているのではないかと、指摘している。
正直、僕自身も、ときたまこういう風に安易に解釈してしまっているときがある。
単純に「好きなことを好きなだけやる」ということと、「好きなことを、追求してより高みを目指す」こととの厳然とした差異をはっきりとさせてくれた。
僕は、やっぱり物事に真剣に立ち向かっている人にあこがれるなぁと、安易な感想を持ちつつ、
考えてみると、私の人生はまわり道ばかりしていたような気がします。<…中略…>
まわり道をして、元のところに帰ってきて、当初の問題が解決されるということではなく、まわり道をしたあげく、思いもしなかったところにひょっこり出てしまい、また新しい道を歩きはじめる。しかし、まわり道をしたことがけっしてムダにはならず、新しい道が開けてくるといったところがあったような気がします。
こういうのは、まわり道というのとはちがうかもしれません。でも、ほかになんと言ったらよいのか分かりません。とにかく道がまっすぐ素直に通っていないのです。
p,181「第五章 人生ずっと、まわり道、まわり道をしたから分かってきた」
という文章を読んだ時、「とにかく道がまっすぐ素直に通っていないのです」というくだりが、僕にぐっさり刺さった。
勝手におまえも頑張れよと言われている気分になった一冊。
ちなみに、ハイデガーやメルロ・ポンティなどの著作を紹介しながら半生を振り返るという内容だったのだけれど、難しいことをうまくかみ砕いて書かれているのでとてもよみやすかった。
- 作者: 木田元
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1991/04/08
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- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/04/10
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も積読しているのでそのうち。
読んでいるのに記録していなかったので、まだ今年2冊目。
全部で32冊目。後48冊。