Paradigm Shift Design

ISHITOYA Kentaro's blog.

組織についての考え方.

最近,社長に影響されて色々考えていることをまとめてみる.
僕は,特に社会学とか経済学とか組織学とかを専門的に勉強しているわけではないから,これはそれらの学問に裏打ちされた考察ではなく,ある種感想のようなもの.



僕は,未踏のときに経済産業省からお金をいただいて,プロジェクトを組んで問題解決に当たるチャンスを得た.
今振り返ってみると,僕の未熟さゆえにプロジェクト運営に失敗したなとおもう.
だから,もしも,僕にもうすこし考えがあれば,もっといい成果を残せたんじゃないか.そして大きなチャンスだったから,本来ならばもっと,僕だけじゃなく周りの人に,能力や考え方や自信のようなものを還元できたのではないか,と反省している.



さて僕が今お世話になっている会社は,社長含め13人の小さな会社である.
実は二十数年の歴史があり,ずっと社長職についている社長は,一目見て職業が分かる.


最近,仕事が溢れんばかりに入ってきて,嬉しい悲鳴とはいえ,少々オーバーフロー気味.
大きな仕事がいくつかある上に,短納期の仕事がことごとに入ってくる.


小さな会社だから影響は大きくて,退社が遅くなり,社員のフラストレーションは溜まり,モチベーションは下がって,凡ミスが多くなる.
そんな悪循環に陥りそうな一歩手前で,なぜ退社が遅くなるのかということに関してざっくばらんにミーティングを行ったそうだ.社員の答えは大きく分けて,

  1. 個々人の能力不足
  2. 予定が立てられない

の二つだった.これは多分,どの中小企業においても発生している問題だろう.
研究室でも,先生が「なぜ仕事がはかどらないのか」と聞いたときには同じ答えが返ってくる.


そして,恐らくは管理職が問題の中心に据えられ,彼らが個々人の能力・状況をどのように把握するか・仕事を割り振るかということが解決策の筆頭に上がってくるだろう.
1の個々人の能力不足については,管理職が作業に当たる個人の能力と作業を照らし合わせて,能力が不足しているようなら他の人員を充てるか,ここはあの人に聞いて,そこは誰々にふってと正確に指示をできるようにする.
2の予定が立てられないという問題については,管理職が個々人がどの程度の能力を持っているかを把握していて,現状何の作業に当たっているのかを情報として知ることができればいい.
そして,管理職が全てを把握するのは難しいから,個々人に記録なり自分の能力がどれほどかをしっかりと認識し報告をするように指示する.
また,作業前のブリーフィングをしっかりと行って,コミュニケーションを密にとる.
個々人の勤怠や能力は管理職の管理・指導によって,矯正・改善できるという考え方だ.
確かに管理職が努力をすることで,解決できる問題は多いだろう.特に日本の大企業においては現場責任者の努力によってボトムアップ労働生産性を向上させる,カイゼンという言葉が世界に通用するようになったほどだ.*1


しかし,ここで社長は言う,

「仕事という行為は,およそ人間の行う行為の中で,もっとも個人の意思を反映することができる」

仕事は従事している個人が,やりたくないと思えば簡単にやめることができるもので,もっとも自由な行為であると.
社長は続けて言う,

「大企業の理論は中小企業には通用しない」

と.大企業においては,Empoloyee Satisfactionを向上させるような方策をとることで「カイゼン」を促すことができる.だけれども,中小企業において,ましてや社員数10数人の会社においては,「カイゼン」するためには「個々人の能力やモチベーション」に期待するしかない.なぜなら,中小企業においては社長から末端の社員にいたるまで全員が現場責任者だからだ.
いくら管理職や社長が口を酸っぱくして「カイゼン」を促しても,それによる見返りがはっきりと分からなければ,従業員は動かない.そうしてヂレンマに陥る.
まるで,ゼロ金利政策が市場に通用せず量的緩和政策を採用した時の日本のようになる.


だから,中小企業の従業員に要求されていることはとてもハイレベルなものだ.個々人が所属する組織について,もっとはっきりと意識し行動に移す必要がある.それは,個々人の能力不足やスケジューリングの問題を,組織が解決できないから,と考えるのではなく,「自分が所属している組織全体として問題をどう解決するか」と考え協調的に問題解決に当たるということである.
しかも,その動機付けは「組織から与えられて得るEmpoloyee Satisfaction」によってではなく,個人のモチベーションによって行うのである.


世の中では,Employee Satisfactionについて様々に考慮された大企業が就職先として人気だ.また,大企業に所属している人間は,さも中小企業とは格が違うのだという吹聴がある.
だけれども,僕はそれは大きな間違いだと思う.
中小企業の社員に求められるものはとても大きい.仕事の格がどうのこうのではなく,人間として求められているものが,根本的に違うのだ.


社長は,Empoloyee Satisfactionについて,

「組織によって与えられて得ることのできるEmpoloyee Satisfactionなどというものは存在しない」

と主張する.Empoloyee Satisfactionのうち,組織が意図して向上させたようなものは,管理職がカイゼンを遂行するために与えるアメなのだ.そんなもので得られる満足は,元より存在しない.真のEmpoloyee Satisfactionは,組織の外から動機付けされるものであり,Customer Satisfactionが最大化したときに初めてお客様から還元されるものだという.

「お客様のために責任を果たすこと,それこそがEmployee Satisfactionだ」

社長のこの言葉は,とても重い.
本当の「カイゼン」は,組織全体としてこれを体現したときに行うことができるのだろう.

まずは社員が気づくところから,じわじわとボトムアップすることが中小企業にとって一番重要なことだと,社長が言っていたのを思い出す.その底流にはこういう考え方があったのだ.


社長の家に居候し始めて1年になるが,漸く,社長の考え方の一端を理解できたような気がする.



翻って,未踏のプロジェクトがうまくいかなかった理由は,「参加している感」を僕以外の人間に感じさせることができなかった.ということだと思う.
例えば,もりやんやikkiを未踏の発表会へ連れて行ったり,合宿をしたり.「みんなで何か一つの問題を解決する」ということを僕自身があまり深く考えていなかった.
自分がどこに向かうのか,みんながどこに向かうのか,プロジェクト全体として何を目指すのか,なにもかもぼんやりとした状態で,前に進めるわけがなかった.


今,研究室でも会社でもなんらかのプロジェクトに関わっているから,なにがしかのフィードバックをできればいいなと思う.


以上,駄文でした.

*1:僕は,カイゼンは労働者中心の活動ではないと考えている