Paradigm Shift Design

ISHITOYA Kentaro's blog.

市川伸一著、学ぶ意欲の心理学、読了

小田中直樹著、日本の個人主義、読了 - Paradigm Shift Designを読んでから、メタ認知論の本がほしくてFRONTEに行ったけれど、特にいい本が見当たらず、タイトルで買った本。


学ぶ意欲の心理学 (PHP新書)

学ぶ意欲の心理学 (PHP新書)


学習に取り組む際に重要になってくる「動機づけ」について、最初に過去の様々な言説を紹介する。そして現代におけるの問題について、精神科医の和田秀樹先生、教育社会学者の苅谷剛彦先生との対話を通して掘り下げ、最後に理論的な内容を実践的に適用していくためにはどのようにすればいいかという提言で締めくくる。


1章の前半は過去の言説や本書の理論的枠組みがわかりやすくまとめられている。
自律的に学習しようという動機を内発的動機と呼び、他律的に学習しようという動機を内発的動機と呼び、動機はこの二種類で分類し考えるのが伝統的らしい。ただ、大学生にアンケートをとると、どうもこの2種類に分類しきることはできない、ということで市川先生は「学習動機の二要因モデル」を提唱している。これは、動機の志向性を、「充実・訓練・実用・関係・自尊・報酬」の6つの志向に分類するモデルである。詳しくは図がないと説明しようがないので説明しない。


ただ、このモデルは注意が必要で、僕はこれを読んだ時にどうしても納得がいかなかった。
その理由は、よく読めばわかるのだけれど

まず、大学に入ったばかりの大学生に書いてもらいました。「あなたは高校まで、なぜ勉強してきたのでしょう」、あるいは「人は一般になぜ勉強しているんだと思いますか」

第1章 動機づけの心理学を展望する、p46

というアンケートをもとに、出てきた答えを分類することでモデルを作成し、心理テストを作成しているからだった。だから、大学を卒業してしまった僕がこの心理テストを受けてもあまりよくわからないし、得点を計算してみると充実・訓練・実用・自尊がいずれも5段階評価で平均値の2.5を超えてしまった。
2章や4章にも書かれているがこれらの複数の志向が複雑に絡み合って「多重に支えられた動機」として学習意欲を引き出しているというのが実際のところで、「志向性」なのだということと母集団を意識していないから感じた違和感だった。


全体を通してみると、さらっと読める文章で初学者にとてもやさしい内容だった。
ただ、1章の内容があまりにも性急にすぎ、2章3章では対談を通して1章の内容を掘り下げていくという内容であったために、なんだか自己啓発本にちかい印象を受けてしまった。
とくに和田さんとの対談を「そのまま」掲載することには何の意味があるのか、ちょっと理解に苦しむ。体系的にまとめてくださったほうが読みやすい。
…とおもったら、一番最後に読書案内がついていた、市川先生の著書「学習と教育の心理学」がこの本の底本らしい。そちらを読みます。


あと、苅谷さんの論文で触れられていたデータは母集団が何人だったのかとか、データを判断するために必要な情報が引用で削られてしまっていた。これも「階層化日本と教育危機」に載っているようなので、読んでみようと思う。


教育心理学は、僕の研究やDMの研究に重要な意味を持っているだろうから、しっかり勉強しないと。動機付けの分類、学習の諸段階、階層的な考え方、ヒドゥンカリキュラム、学習性無力感なんかを掘り下げると、僕の研究に役に立つかな。実用志向だ…。


30冊目。